生活衝百科2

ラッパー東京未開封( Smash Egg Records)(EX ZIGOKU-RECORD)が人生というクイズに挑戦します!!!正解したら褒めてくれ。

80話 暴徒達の海岸⑦お前の芸術とやらに幸あれ

あくる日。靴を履きながら、ピッコリと話す未開封。「あの娘さんたちどこいったん?」「塾、受験が近いのよ」「ケッ、今の時代、大学出てもどうなるもんかね…なぁ?」再び背を向けると未開封は「ちょっと、憎まれ口たたいただけだよ、ピッコリはなんもいわねぇで聞いてくれっから…」とさびしそうにつぶやく。汚れたスニーカーが大理石の床をたたく。


駅前のロータリー。仏頂面の望が待っている。やがて未開封が現れる。遅刻してきた未開封に「…遅い」とだけつぶやく望。「まだ怒ってんのかよ!」わざと明るく大声を出す未開封。望は何も言わない。「あ〜〜死にてぇ!」と未開封。


駅の裏にある市民ホール。生け花講座のチラシを見た未開封が、「生け花しようか、な、望ちゃん」と声をかけるがまた答えない。黙って進んでいく望の背中を追いかける未開封。


奥のコーナーで、おばさんに対して受付を進んで変わる沙羅の双子の姉、双樹。「体、弱いんだから…」と双樹を気遣う様子を見せる沙羅。そこに未開封と望が現れる。「なんで来た!」と食って掛かる沙羅に謝ろうとする望を遮り、「いや、生け花しにきたんだ」と未開封は言う。「お花…好きなんですか?」と笑いながら声を掛ける双樹。「聞いて驚けよ…いや、驚かないでくれよ…お袋華道の先生だぞ」


隅に飾ってある双樹の絵を、双樹と見る未開封。「これは望お兄さんと会った場所に咲いてた花…。みんな、この町で見つけたものなんです」「タバコ吸っていいかな…」


その奥の仕切りの中。「私だって、冗談だとはわかっていた。ただ、双樹はお前の事を気に入ってるんだ…」パイプ椅子にもたれ掛かる「ほんとうにごめん…」些細な誤解が解け始めた頃、新たな客が展示会に入ってくる。「薫子ちゃん、菫子ちゃん…それに小阪」「それにってなんだよ。オレはおまけじゃねぇんだぞ!」「望ちゃんもここにいたんだ」と親しげに話しかける一条姉妹。ようやっと笑顔を見せる望だったが、遅れて入ってきた優也を見て、再び表情は暗くなる。


壁にもたれ掛かる、沙羅と未開封。
「しかし、客より手伝いが多い展示会なんて変だな」「そー?俺美術部だったけどこんなもんだべ」「どうせうそだろ?」「なんでだよ」「お前はなんとなくいい加減な気がする」


優也をにらんでいる望。


「男っていい加減か本気かわかんないギリギリで生きてるもんじゃない」「探偵物語だな。ちょっと違うけどな」とにやりと笑う沙羅。「知ってんだ」「私も聞いて驚くなよ…いや、聞いて驚けよ。私の大切な人は探偵なんだぞ」「松村?桂小枝?パラダイス探してんの?」「バカ、そっちの探偵じゃない」


一条姉妹につれられ、外にチラシを配りに行く望。ついていく小阪。そんな望の背中をにらみながら沙羅は言う。「…あいつはいい奴かもしれないけど、私はやっぱり嫌いだ」「なんで?いい奴だと思うぜ」「だらしないんだ。ほんとに…」沙羅は未開封に望が、一条薫子一条菫子。桜月キラとユラ。4人の女に好かれてるにもかかわらず、態度をはっきりせず、自分の姉の双樹にも好かれて、いい顔をしてることを話す。


「モテるってのもつらいって事かねぇ…。わかんねぇなぁ…ところで、桜月って誰?…あっ、俺そいつらんの家住んでるわ…」「…!?」「住み込みのメイドよ、まじで剣持とか言う執事がうぜーんだよ」「メイドって言わないだろ、男は」自分の太ももを触りながら「俺、ガーターベルトしてもん」と未開封。「うそつけ!」「ああ、剣持殺してぇ〜」と股間をいじくる未開封。


二人を見て、まるで漫才師みたいだと言う双樹。「おー俺と組むか、しずちゃん」「だ、誰がしずちゃんやねん!」自分で関西弁を使って自分で顔を紅くする沙羅。「ノリいいじゃん…」


双樹に誘われ、スケッチブックに絵を描く事にする未開封。しかし、できた絵を見て沙羅は「下手じゃん」と一蹴。「主線とか決めて描けば、いい絵になると思いますよ」と優也が口を挟む。「俺、下手かなぁ」と素で凹む未開封。「いい味だしてますよ」とはげます双樹。そこに一人の太った中年の男が入ってくる。


「お前、太ってるなぁ」と未開封になれなれしく声を掛ける男。(なんだこいつ…)「オレ、絵描き」と聞かれてもいないのに名乗る男。「ほーお前が描いたのかこれ、はは、もっと練習しろよ」となれなれしく批評し、背を向ける。仏頂面になる未開封。そのまま絵を見て回る。沙羅が止めるのも利かず、声を掛ける双樹。「オレも絵を売ってるんだよ!」そのまま大声で自慢話や芸術論しゃべりはじめる。「おっ、花沢先生を知ってるか、キミ!」「うるせー…」とぼやく未開封。


上機嫌でしゃべり続ける男だったが、双樹に「私の絵、どうですか?この町で出会った人たちの思い出をこめて描いたんです」と聞かれ、「正直に言っていい?これじゃあ芸術とは言えないよ」と言い返す。


「なんて言うの?これ命かけてないでしょ。趣味でしょう」男はしゃべり続ける。「絵を売るってことは悲劇だからね!命がけじゃないとだめなの。オレなんて生活の保証もないよ、昨日だって車で寝たしね」


立ち上がる沙羅。「おい、もういいだろ!みんな迷惑してる」「なんだよお前…」男はなおもしゃべり続ける。「オレはお前達みたいにね、この国でなーんも疑問を持たずに生きてるのとは違うんだ!」「どうせ、たいした親から生まれていないんだろ?だからそんな風に育つんだ」沙羅と双樹に怒鳴り続ける男。「絵を売るってのは悲劇なんだよ、そんな孤独な芸術家に向かってなんなんだお前ら!」なにかがキレたように立ち上がる未開封。


「外の公園でさっきリヤカーにひいた絵描きのおじさんに会ったけどな!その人はオレの話を聞いてくれたぞ!もっと話してくれって…」


―――殺す!―――
男の背中に迫っていく未開封、同じく飛び出そうとする沙羅。しかし、そんな沙羅に双樹が目配せする。つられて後ろを向く未開封、そこには心配そうに集まってきたおばさんや警備員がいた。


「…」男の前に無言で立つ、未開封。「すごいっすね…尊敬しますよ…」未開封は、落ち着いた様子でしゃべりだす。「俺、いま就職とか悩んでて、そういう風な生活ってうらやましいです」細かく震える拳と足。

――殺せ、こいつ殺せ…!―――

「うん、就職なんてしてもしょうがないよ、今の日本のシステムはじき破綻するからね!」
――殺す!―――
「お前ももっと絵の勉強しなさいよ!アニメの絵とか描くくらいが関の山じゃしょうがないからな!」
男の笑い。下を向いてつくり笑いをする未開封。
――こいつだけは許せねぇ…―――


未開封の脳裏、手にしたボールペンで男の目をメッタ刺しにして、馬乗りになって殴るイメージ。
男の背中を見送る未開封、目線の先に、あの時笑ってくれた親子の姿もあった。


「未開封さん」双樹に呼びかけられ、あわてて手にしたボールペンをしまう未開封。そこに望たちが帰ってくる、「なにかあったんですか?」「なんでもねぇよ…」


白い天井。無数の小さな穴の開いた、絵を飾る壁。
―――殺されるより、屈辱的なこと…―――