生活衝百科2

ラッパー東京未開封( Smash Egg Records)(EX ZIGOKU-RECORD)が人生というクイズに挑戦します!!!正解したら褒めてくれ。

81話 暴徒達の海岸⑧月はそれでも青いから

―――殺されるより、屈辱的なこと…―――
理科室。一人椅子に座っている中学生の未開封。
―――散々、味わってきた―――


―――ナイフで、同じクラスの調子こいた野郎を襲ったのは中学のとき、理由は特にない――

ナイフを突き出す中学生の未開封。


―――同じ部の奴だっけ、よくおぼえてねーな。部活のことバカにされてたから、とか先生には言い訳した――

蛇口から落ちる水滴。
―――先生達はその理由ばかり聞き、答えを渋る俺に怒鳴った。―――


靴箱。
――やってきたお袋は…何も言わなかった。―――


―――殺されるより、屈辱的なこと…―――

繁華街。

―――それでも我慢しなければならないという事…―――

ゲームセンター。

―――うんざりだったのに。―――

赤い球体のついたレバーを握る、指輪をつけた、黒いマニキュアでそまった指

―――今、なにしてんの?学校…やめたんでしょ。――

胸からさがったクロム・ハーツ。

―――美容師になろうと思ってんだ…。―――


―――街で偶然あった、同じ高校を中退した奴。そいつの名前も覚えてない。ただ、先生にむっちゃくちゃ反抗してたなぁ…―――


―――本当は、我慢してはいけないんだ。その事をそんな記憶とともに思い出したのはあの事件がきっかけだった。―――


「どつくぞ、ワレェ!」
電車の中、にらみを利かせる色黒の肌の男。


―――我慢さえすれば、確かに何事もなく過ぎていく。―――


―――でも、それじゃあ…―――

ジャージのポケットの中に突っ込まれるポケットナイフ。
「ぶっ殺す!!」
坂をかけ下りていく険しい表情の未開封。
うれしそうに笑いながら、それを四足で追いかけるサム。


―――時間を経て、ゆずれないもんがようやく俺にもできた…―――

「!」目を見開き、とまる未開封。色黒の男と、一緒に立っている背の高い男…。
「もう、謝罪とはいいですから、お互いなかったことに…」

―――ゆずれないもんがあるなら…―――

―――頭に上った血が、みるみる下がり…あのおふくろの疲れた顔を思い出した。―――
肩を落とす未開封。小声で「すいません…」


―――俺は殺されるよりひどい屈辱を与えた相手を、ぶん殴ることさえできなかった―――


坂の上から見ているサム。「チェッやんねぇのかよ…」
―――タカでもなく、ハトでもなく…鳴くくせに人にエサを与えてもらうのを待つ太ったカラス…。―――
坂をあがっていく未開封。ゴミ捨て場を横切る。


―――また…できなかった…―――

―――第76話  月はそれでも青いから―――


電灯の下、ハッハッという笑い声。
キレてないですよ。俺キレらせたらたいしたもんっすよ」「あはは!長州小力!」輪になった望達を笑わせている未開封。腹を抱えて爆笑する小阪。「俺をキレさせたらたいしたもんだー!あいつ立って帰れないぞぉ〜」「ぜんぜんにてねー!」「なんだと!」夜空に響く笑い声。


「まったくくだらない奴だ」涙を流して笑いながら言う沙羅。「じゃあ、しずちゃんもやってみ」「キレ…ってしずちゃんじゃないって言ってるだろ!私は白鐘沙羅だ!」「そういやみんなの名前しらねーわ、俺」そこから望の皆の自己紹介が始まる。「こいつは、小阪。オレの幼馴染です。」「小坂敬介でーす!夢はハワイに実家の寿司屋の支店を出すことッス!」「…え」たじろぐ未開封。


「同じ幼馴染の、薫子ちゃんと、菫子ちゃん…」「「こんにちわ」」「双樹ちゃんと沙羅ちゃん。二人とも未開封さんと同じで、他所から来たんだったね。」「はい」と答える双樹。顔が赤い沙羅。


「あれ?女子は双子ばっかな」「今頃気づいたんスか?」「それと…」表情を曇らす望。「桧山優也です。望と菫子ちゃんと薫子ちゃんとは幼稚園が同じなんです」と握手を自分から求めてくる優也。「ああ…どうも…」握手を返す未開封。「ところで、なんで未開封っていうんすか?本名じゃないでしょ。本名教えてくださいッスよ!」「おめーには教えねーよ」「なんでなんすか〜!」じゃれあう小阪と未開封。


「じゃあ」帰り際、望に「パーカー被った変な連中がいるらしいから気をつけろよ!オレの実家もそいつらにガラスとか割られたんだから!」びくっとなる未開封。「わかってる」と望。


ならんで夜道を帰る未開封と望。「あの優也ってのと仲良かったの」「別に…なんでそんな事聞くんですか?」「別に…」宙を見上げる未開封。「昔はともかく正直…今は嫌いですね」少し目つきが険しくなる望。「ああ、わかる。なんか常にしゃしゃりでてくるしなぁ」それを聞いて少し笑う望。「いかにも優等生っていうあのオーラも苦手やね、ほんま…」


ベットの下に何かを置くピッコリ。そこに未開封も帰ってくる。「楽しかった?」「まぁね」「ゆっくりしたらいい…人間、そういう期間が必要だ」「ん?」「なんでもない」部屋を出て行くピッコリ


ドタドタと走りながら、望の部屋に入ってくる雅の娘達、「望おにいちゃん!ねぇ、また星みせて」。暗い部屋、ベットで丸まってる望。顔を見合わせて、ドアを閉じる二人。


――優也は、高校に受かったら薫子ちゃんに告白する…――
布団で顔を覆う望。すすり泣き…。脳裏によぎる、「他の女の子全部ときっぱり別れて双樹と付き合え!」」という沙羅の言葉。
――中途半端すぎる…。オレ…―――


寝れなくておきてしまう未開封。「ちくしょー、あの野郎の顔が…」額に浮かぶ汗。「ん…」ベットの下からなにかはみだしてるのに気づく。拾い上げる未開封。「これは…」未開封の目の前にある無修正の海外のエロ本。


数時間後、ベットの上でいたしてる未開封。「だめだ!…どの顔にもあの芸術家野郎の顔が被ってきて…!」そのまま倒れる未開封。耳に入ってくる時計の音。半身を上げて、目の前の時計を見る未開封「…2時かぁ」


コートを着て、外に出る未開封「寒み…っ」コンビニを探す未開封。しかしあたりになにもない「ちぇっ、いなかだなぁ…」そのうち、海にまた出てしまう。


「あっ」
青い月に向かって上がっていくなにか。
浜辺に、足元にランプを置いて立っている優也。
「あいつ…」
未開封に向かって手を上げる優也。


「中3…だって?」
「ええ、ヤバイですよ」
「ヤバイって、おまえ結構勉強できるんだろ。望が言ってたぜ、あいつはすげぇって」
自分のズボンのポケットをまさぐる未開封。
「でもヤバイですよ。昨日なんてオナニーし過ぎちゃって…」
「へっ?」
噴出す、優也。


夜の砂浜。
階段に座った裕也と未開封。
「するんだ…」
「しますよ。すごいしますよ…特にこう…テンパっちゃうとね」
「ぜんぜん、普通の人間じゃん…」
「悲しいくらい人間ですよ…」


タバコに火をつける未開封。闇の中浮かび上がる、和やかな表情。
「意中の女のことでも考えてしてんの?」
煙を吐き出し、茶化すように言う未開封。
「菫子ちゃんのことですか?考えてますよ」
「ブッ」
前のめりになる未開封、落ちるタバコの灰と火の粉。


「ちょっと罪悪感とか…確かにあるけど…」
波の音。
「その分、もし付き合えたら真剣に接しないとなって、思うんですよ…変態ですかね、俺」
「ド変態だよ…でも」
タバコを噛みながら、歯を見せて笑う未開封。
「すげーかっこいいぜ」


自分のポケットに手を突っ込む優也。
「火、もらえますか」
「おまえ、すーの?」
未開封の鼻から吹き出される煙。
「兄貴の影響でね」
緑色のマルボロの箱。
「でも、菫子ちゃんが嫌がったらきっぱりやめますよ」
「ふーん」
煙を鼻から吐き出し言う優也。
膝にひじを突くくわえタバコの未開封。

顔を近づけ、タバコを差し出す優也。火をつける未開封。
青い月。
タバコをくわえたまま、発射台を膝に置き、月を見上げながら優也は言う。
「知ってます?地球と宇宙の境目は高度100km。国際航空連盟で決められているんです」


望遠鏡をのぞく、屋根に上った望。
――あの言葉、大嫌いだ―――
吹く、北風。
震える肩に毛布をかける望。
「絶対、星見つけてやるから…」


――オレ…星見るの好きだったんだ…。


「これでいいか?」と、コンクリートブロックを置きながらたずねる未開封。
「いいっすよ」
浜風になびく優也のタバコの煙。


空気入れを押す優也。
音を立てて、水を噴射していくペットボトル。
ぬれた砂浜。
タバコをくわえながら同じ方向を向く、優也と未開封。


青い月に重なるペットボトル…。
くしゃみをする望。


――こうして、それぞれの夜は更けていく――
自販機の横のゴミ箱に捨てられた、空のペットボトル。
砂浜の階段。
―――俺はこの後、思い知ることになる…――
捨てられた、細い吸殻。
紙が引きちぎられ、中身があらわになった吸殻のフィルター。
―――俺が望んだ暴力は、全てをボロボロにしてしまうことに…―――


床に落ちる、火のついた吸殻。
うめき声を上げながら、床に丸まる黒いフードを被った男。
それを見下ろす、七三にメガネの、フードの男。
見下す男の拳に握られた、血のついたメリケンサックル。
もう一人、フードの男が殺風景な部屋に入ってくる。
「小林、片付けておいてくれ…こいつ、隠れてタバコを吸っていた」
膝を突いて、倒れている男を起こす、小林と呼ばれた黒フード。
「まったく、ダメな奴ばかりだ…」
小林のメガネに映る男の背中の「私たちは法律と社会秩序を尊守します」の文字…。