生活衝百科2

ラッパー東京未開封( Smash Egg Records)(EX ZIGOKU-RECORD)が人生というクイズに挑戦します!!!正解したら褒めてくれ。

65話 月と星⑤特攻ストレートpt.2

「ムギ…?」
パシリはリングに叩きつけられた瞬間目を覚ます。「あし…足で挟め!ガードポジション!ガードポジション!」とっさのエースのアドバイスを理解できず、降ってきたリメルダの素拳を額に喰らってしまうパシリ。リメルダは首と上体を動かして拳を避けようとするパシリの動きを読んで、冷徹に頭部にパンチを当てていく。


立ち技とグランドの違い…完全に動きを制された状態のパシリを、リメルダは殴る。殴る。その紫の瞳には過去見た情景が浮かんできていた。


右目で覗いたスコープ越しに見える、倒れた兵士…。その足を、腕を撃ち抜くリメルダ。
―――狙撃手は…常に相手にとって最も残酷な行為を実行しなくてはならない。
スコープの中、泣き叫ぶ兵士の姿。茂みの中から飛び出してくる、その仲間らしき兵士…。次の瞬間。引かれる引き金。撃ち抜かれ、血をと飛び散らす頭部…。ズタ袋を被り、頬に緑のペイントをしたリメルダの顔が、電球の下、パシリに馬乗りになった現在のリメルダの顔と重なる。


ジムに打撃音が響く。血がリメルダの拳に巻かれたバンテージをぬらしていた。「笑っていやがる…」天城は、体を傾けて逃げようとしたパシリを横から殴るリメルダが歯を見せて笑っているのを見て、呟く。


反撃しようと下からパンチを出すパシリ、しかしパーリング*1され、反撃の一撃を再び顔面に喰らう。「止めますよ!入りますよぉ!」見かねたウカジがリングロープを潜った。その時、パシリの瞳が自分を見下すリメルダをキッとにらむ。次の瞬間飛んできた拳を、パシリは腹筋を使って起き上がりながら、額で受け止める。


「!」
一瞬ひるんだ隙を突き、パシリはリメルダを腕力で担ぎ上げる。そのまま地面に尻餅をつかせたパシリ。その姿勢のまま、寄ってきたウカジにうめくように「ク、ク、ク…」と訴えかけるパシリ。「ク、クリンチね!!はい!離れて!」


「ストップ!ストップ!…ジャストあモウメント!」
再び戦おうとする二人を止めるウカジ。そのままパシリの顔を見る。昨日切った額が更に深く開き、鼻からも大量の血が流れていた。「止めるって言え!なっ!」顔を近づけ、スパーリングの中止を迫るウカジに、ぶんぶんと首を横に振るパシリ。「やれたらやりてえんだよ…ムギ」パシリの目に浮かぶ、同じ台詞を呟く兄・未開封の背中。


止血処理の後、再び向き合う二人。冷たい笑みを浮かべたリメルダに向かい、「お前がダウンさせたのはパシがはじめてだ!ムギ!」と叫ぶパシリ。「逆!逆!」とエース。


「もう死ね!お前ら死ね!」天城に「ルールは…お前に任せるよ…」と言われ、やけくそになったウカジが試合を再開させる。しかし、飛び込んでは膝やカウンターパンチを喰らい、離れる展開を繰り返すパシリ。顔を背けるウカジ。しかし、天城は呟く…「いい動きになってきたな…」


次第に飛び込みの速度に反応できず、反撃せずにクリンチするようになっていくリメルダ。パシリの驚異的な踏ん張りに勝てず、マウントにも持ち込めない。


「あ、忘れてた」と、ラウンド終了10秒前の合図の拍子木を鳴らすウカジ。飛び込みからのパシリのフックがついにリメルダに届く、体勢を低くしてかわすリメルダ。その顔面、右目にパシリの左ストレートが炸裂する…。コーナーロープに背を任せるリメルダ。ゴング。ニッ。と笑うパシリ。笑みが消え、眉間にしわを寄せるリメルダ…。二人のアゴを伝う、同じ量の汗。

*1:手でパンチを弾くこと