64話 月と星④特攻ストレート
リメルダにヘッドギアをつける天城。
「名前なんつったっけ…。ジェニー?あ、ジェニーは黒人か…しかもまだ4歳だもんな。ありゃレイモンドの娘だったな…。えーっと」「リメルダ」
立ち上がったリメルダはリング中央へ。少し遅れてパシリも飛び出す。「いっちゃうの!?もういっちゃうのォ!?」ウカジの叫び。ゴング。
「アマチュアルールで!3ラウンド3分ね!」
ウカジの怒鳴り声がパシリにはゆっくり聞こえた。と同時に飛び込んできたリメルダのワンツーをかわす。反射的に出したカウンター気味のフックはガードされる。いったん距離を置く二人。リズムを刻むリメルダのスニーカー。突っ込んできたパシリのフックを、リメルダは体を退けて避ける。「ちゃんとボクシングになってんじゃん…」予想外の展開に目を丸くするエース。
「いきなり行くな!ちゃんとコンビネーションに組みこめ!…ってコンビネーション教えましたぁ!?カイチョー!!」ウカジの問いかけに「一応…」と、また言葉に詰まる天城。しかしパシリはリメルダの出鼻を挫くジャブを見せ、そこから踏み込み、ボディブロー繰り出す。パシリの動きから「顔面しかない」と思い込んでいたリメルダはモロにそれを喰らってしまう。
ビリビリと全身に広がる痛みを感じ、後退するリメルダ。『なるほど…』リメルダの右目に映る白い珍獣・パシリの姿…。直後、大振りのパンチがリメルダを襲う。しかし、パシリの拳はロープを揺らしただけで、リメルダにはかわされてしまった。そしてゴングがなる。「バカ!最後の最後で適当に振りやがって!」ウカジに怒鳴られながらコーナーに戻る両名。背を向けたパシリに向かって、まるでライフルを構えるかのようなポーズをとるリメルダ。その口元が笑う。腕を組み黙って見つめるエース。
コーナーで黙ったまま、乱暴に天城に拳を預けるリメルダ。天城は彼女の白いグローブを外す。困惑するウカジをよそにエースは尋ねる「どーすんだよ」「「ボクシング」に決まってるじゃんかムギ!」やがて、リメルダはヘッドギアもグローブも外してしまう。
ゴングが鳴る。「そりゃ…いままでだって、アマチュア用のグローブ使ってなかったけどさ!!」再びウカジの声がゆっくりと聞こえる中、パシリは踏み込みながらボディブローを繰り出す。しかし、それはリメルダの脇に当て流され、そのままリメルダは跳ねる。「ボクシングしようよ!ボクシング…!」リメルダの飛び膝がパシリの顔に突き刺さる。ゴンという音。暗転する視界。エースは見る…今まで一度もダウンしたこと無いパシリがリメルダに圧し掛かられたまま、力なくダウンしていくのを。