生活衝百科2

ラッパー東京未開封( Smash Egg Records)(EX ZIGOKU-RECORD)が人生というクイズに挑戦します!!!正解したら褒めてくれ。

63話 月と星③ライク・ア・トイソルジャー


「たたかいたい…」
朝、テレビからニュースが流れる。「イラクから帰還し、精神病院に閉じ込められる兵士」「ひきこもる男」「ベルトを巻いたまま網膜はく離で引退する、海の向こうのボクサー」…。そんなテレビを消して2階へあがっていくジュン。


寝床から起き上がるパシリ。寝返りを打つ、未開封の母。苦しそうな寝顔。
「たたかいたい」パシリは昨日の夜の出来事を思い出していた。朝のたまプラーザ、枯葉が舞う中をパシリは走る。「たたかいたい」トラックからコンビニに荷物を運び込む作業着の人。「たたかいたい…イヤなことが全部なくなるまで」パシリの手足がすばやく動く。


「現実を受け止められなくなっている人が増えているというか…」ニュースキャスターが捨て台詞のようにテレビの中で言う。


「もう休め!」
天城の声と鳴らすゴングも聴かずにシャドーを続けるパシリ。「昨日からぜんぜん直ってねぇぞ!そんなの100も、1000続けたって意味がねぇ!」ようやく止まったパシリ。相手してやれ、と言われたウカジがリングに上がる。やがてエースもやってくる。


「K大…?名門じゃねぇか」
メデスンボールを押し付けられるパシリの横で、長いすに座る天城とエース。学校に行かなくていいのかと聞かれたエースが答える「でも、留年したんですよ。…結局、一握りですから」「ラクにならねぇよなぁ」二人の目の前でウカジのパンチを、時々ぶつかりながらもかわし続けるパシリ。「休め!試合させてやっから!今度は背の高い外人とな!」


ジャングル。爆煙の中。突っ走っていく金髪の女の後ろ姿。それを追う様に走るリメルダ。再び爆発。叫ぶリメルダ。振り返る金髪の女。リメルダの紫色の瞳に映った破片の影。こちらに手を広げ駆け寄ってくる金髪の女……視界の右側を覆う暗闇。

―――マドラックス…!!


中華屋の2階。布団から飛び起きるリメルダ。ふすまの間から見ている黒人の少女。少女の頭をなでてて部屋をでるリメルダ。洗面所の鏡の前で目の下の皮を引っ張る。そのまましばらく目を動かし続けるリメルダ…。最後にライフルを持つような構えをし、目を細める。


「なんかこう…胸がスッとしたのは事実ですよ」
縄跳びをしながらエースが言う。「むちゃくちゃな試合だったすけどね、ハッキリ言って」背中を丸める天城。「オレ…勝ち負けあんのがいやになってボクシング辞めたんだ。……でも結局、舞い戻っちまった…このリングに…」


「あんだよぉ…」
ショッピングセンターの中を歩くリメルダ。行く先に人だかりが出来ていた。その中央でお互いの顔を腫らしながら殴りあう二人の男。
「なんで喧嘩してんの」
「なんか、猪木が強いかどうかで…」
「な、わけねぇだろ」
「あぶねぇって!やめろよ兄ちゃんら!おい!死ぬぞ!」
地面に刺さっていた竿を掴む男。鈍い音。
リメルダは人ごみを横切り歩き出す。


―――彼女は時々言っていた…。日常の中の狂気があり…狂気の中の日常があるのかもしれないと…。
町並みと山を見ながらリメルダはなにかを思う…。


いびきをたてて眠るパシリ。体中に張られたシップ。「どこのジムなんですか?」と天城に聞くウカジ。言葉に詰まる天城に対し、「まぁ、会長が許してくれるんなら牛や虎とぶつけてもいいですけどね。むしろそれしかないんじゃないですか?コアラボクサー…なんつって」


「ケッ、金にならないのがそんなに悪いか」「悪いですよ。早いとこ身元不詳の連中への部屋貸しなんて辞めないと手が後ろに回りますぜ。…はやくボクシング一本で喰いましょうよ!会長!」その時、ドアが開きリメルダが現れる。そのまま何も言わずに上着を脱ぎグローブをつけるリメルダに焦るウカジ。


「パシ…」会長が呼ぼうとしたとき、すでに飛び起き、シップを剥ぎ取っていたパシリ。


二人の目は自分の拳しか見ていなかった。