生活衝百科2

ラッパー東京未開封( Smash Egg Records)(EX ZIGOKU-RECORD)が人生というクイズに挑戦します!!!正解したら褒めてくれ。

66話 月と星⑥仁義無き戦い

ロープの外、リングの淵に立っているエース。「オレは、このパシリって奴をよく知らない…」


リングサイドに置かれた椅子に座り、ウカジにアイシングされるパシリ。「グローブはずすか?はずしちまえ!」「イヤ。」


「中学を卒業してだいぶ経ったある日…オレは未開封と再会した」長い、団地に繋がる階段。白い手すりの陸橋。「一緒に遊ぶようになって暫くして、パシリとサム…。中学の頃はあいつの傍にいなかった二人の変な動物を、兄弟だと紹介された」冷蔵庫の前で生肉をくわえるパシリ。「ぬいぐるみだと思ったら、肉を食ったし、しゃべった」生肉を飲み込むパシリ…。


「そんな奴が…」ゴング。拳を出したまま前に進むパシリ。リメルダの素拳とぶつかる。踏み込み懐をねらうパシリ。矢継ぎ早に飛んでくるリメルダの拳。頭を動かして避けるパシリ。リメルダの腹部が迫ったとき、パシリのテーピングされた額が再び切れる。「肘っ!」ウカジが叫ぶ。鮮血が垂れる白いリング。「肘なしね!肘は…!」リメルダが目を細め、なおも踏み込んでくるパシリをにらむ。パシリの頭に向かって振り下ろされる肘。パシリが頭を後ろに退いて避けると角度を変えて今度は鼻を狙う。「おい!」


半歩退いたパシリに、今度は回し蹴りが襲う。とっさに体勢を低くするパシリ。仕切りなおし…。そう思った瞬間、リメルダは痛みを感じ、右目を閉じる、視界の右側が暗くなる。「…!!」


「むぅぅぅ〜〜〜!!」踏み込んで、突っ込んでくるパシリ。リメルダの肘は間に合わない。体を傾けたパシリのフックが脇腹に叩き込まれる。そこから左右の連打。体勢を低くし、2、3発と防いでいたリメルダだが、何発も角度を微妙に変えて叩き込まれるフックに、次第にガードが対応できなくなっていく。
―――「怖い人…」
リメルダの記憶の中…。金髪の女。
光の方へ遠ざかっていくその後姿。暗闇の中、伸ばす手…。
―――待って…!
リメルダの腹部に叩きつけられる、パシリの赤いグローブ。
ゴンッ!


「すげぇ」「まるでファイティング原田*1だな」
顔へ、腹部へ、腕へ、パシリのフック、フック、フック。
左右から休み無く繰り出されるラッシュを喰らいながら、コーナーポストに追い詰められるリメルダ。リメルダがポストを背負うと同時に、思い出したようにパシリが出したボディブローが再び突き刺さる。そして膝を落としたリメルダの右の顎へ、叫びながらのパシリのフック。ふっ…とリメルダの全身から力が抜けた。電気の様な痛みが右目に走り、同時に視界が完全に暗闇に包まれる…。


「いけ!パウンド*2しろ!!」叫ぶエース。「パウント!」とウカジに向かって言うパシリ。
「か、カウントね…!1…2…」ロープをくぐりながらカウントをはじめるウカジ…。「3…」ポストを背に座り込んだリメルダ…。光をなくした右目…。かすむ視界…白い影。


―――何が。
「ほれ、見ろ」赤い旗の前。ライフルを持って立つ軍服姿のリメルダ。「あの歳で親衛隊までのぼりつめるとはな…」金色の薬きょう。椰子の木。アスファルトの上にはみ出した木の机…。黒塗りの車の中のリメルダ、路肩に座った痩せた少女と目が合う。
―――何が残ると言うの?
白いベットの上…裸のリメルダの背中。シーツを掴む手。うなだれた頭。
「怖い人…」
リメルダ右目を覆う包帯。顔にかかる影。背を向けて、歩き出す金髪の女。「行かないで…」振り向く女。女の手で握り締められるリメルダの左手。手の中に握られた、銀色のネームタグ…。「いや…」左腕で顔を隠すリメルダ。


―――貴女が行ってしまって、この国からも離れたら…私になにが残ると言うの…?


どこからか聞こえる飛行機の音。
『私の指は、何本に見えますか?ミズ・リメルダ…』日本人の医者。東急の看板を見上げるリメルダ。青い空。飛行機雲…。『日本…』
鳴り止まない飛行機の音。


「7…8…」視界の中ウカジの指が見えた。「立ちやがった…」苦しそうに咳を切りながら立ち上がるリメルダ。右目は閉じられたまま。汗まみれになった真っ赤な顔。「ウォンチューストップ!?」立ちふさがったウカジを無言で退けるリメルダ(やっぱ、聞く気ねぇわこいつら…)


一歩に前に出るリメルダ。反応して一歩退くパシリ…。パシリの足は震えている…。「どうした…?」リングサイドのエースがパシリの様子を不安そうに見る。次の瞬間、パシリは猛然と飛び出した。そのままリメルダの頭突きとパシリの頭突きが衝突し、パシリはリメルダに頭をぐりぐりとこすりつける。「負けねぇぞ!負けねぇぞ!!!!」叫ぶパシリの腹にリメルダのボディブロー、それでリメルダは右手首を傷めながらも、左手で必死の思いでアッパーを繰り出す…。食らい、嫌がって離れるパシリ。


次の瞬間、パシリが再び踏み込んだ。振り上げられる右手。とっさにガードするリメルダ。パシリの右手は空中で急にひねられ、全体重をかけた手の甲がリメルダのガードの上にぶつかる。「あっ…」そしてパシリは転倒。衝撃が伝わると同時にリメルダもダウン…。

*1:現・原田ジム会長。その激しいラッシングパワーでいきなり26連勝し脚光を浴びる。世界フライ、バンタムの2階級を制覇。小柄で、リーチがあまりない体格、愛嬌のある人柄と顔、リング上での集中力、ボクシングへの純粋無垢な情熱など、パシリと共通する項目も多い…?

*2:倒れた相手への打撃