生活衝百科2

ラッパー東京未開封( Smash Egg Records)(EX ZIGOKU-RECORD)が人生というクイズに挑戦します!!!正解したら褒めてくれ。

83話 暴徒達の海岸⑩タイムシコリッパー未開封


椅子の上に座り、下を向いている望。
病院の廊下。外は雨。
ドアから出てくるピッコリ
「どうやら、権田さんは意識が戻ったようです…今、ご家族の方と」
「そうですか…それで、未開封君は…?」
答える雅。
「ムッシュはまだ…意識が戻らない…」
窓の外を向くピッコリ
「頭を強く打っていて、危険な状態…らしいです」
ため息をつく望。
「ご家族の方に連絡を取ったほうが…」
「ワタクシ…ムッシュの実家の電話番号はしらないの…携帯電話は電源が切れてるし…」
立ち上がる望。
「望ちゃん!」
暗い廊下で振り返る望。
立っている菫子と薫子。


「大変なことになっちゃったね…」
開く薫子の唇。
「望君…あの返事聞かせて」
「いいよ!こんなときに!」
薫子の肩をつかむ菫子。
「こんな時だから!」
水滴のついた窓越しに見える、望と薫子たち。


「……」
薫子の肩の横を、通り過ぎていく望の肩。
怒鳴る、薫子。肩をつかんで止める菫子。
「………!」
歯を食いしばる望。


―――オレ、未開封さんみたいになりたいですよ。―――
開く自動ドア、うつむいたまま出てくる望。


―――悩みなさそうで…―――
望の首を腕ではさむ未開封。
夕方の川原、夕日の前で二人の姿が黒く立つ。
大きい黒い人間に倒される、小さい黒い人間。


「俺だって、好きでこんなとこきてんじゃねーや」
草の上に座り込む未開封。
「うん」
横に座る、学生服姿の望。
「おめー、いっそのことジゴロになっちまえよ」
望の方を歯を見せ、笑いながら向く未開封。
「モテんだから、だいじょうぶ…女にいい加減でもかっこいい奴なんてナンボもいるじゃん…」
自分のポケットをまさぐりながら言う未開封。
「石田純一とか…」
パーカーのポケットに両手を差し込む未開封。
「オレ、そういうのはちょっと…」
前を向き、目を伏せる望。
「あ〜優しいのね」
自分のポケットを引っ張っている未開封。
「なめられんぞ…そーいうの…」
立ち上がり、軽く飛び上がる未開封。
「あれ…タバコねぇ…」


夕日を後ろに立ち上がる、二つの黒い人間。
「あった!」
斜面の下で、声を上げる、薄い箱を持った望。
「おーごめんねー」
手を上げて、沈んでいく夕日を背に望に近づいていく未開封。
望の手にした箱に書かれた、葉っぱのマーク。

ピッ・ピッ…。
ベットに、無数の電極をつながれ眠る未開封。
頭に白い包帯。
シーツの上、動かない、包帯とコードがついた腕。
ひらっきぱなしの口。


ザァァァ…。
アスファルトに向かって降りて行く雨粒。
そこに膝を突き、頭をたれる望。
ぬれた髪から垂れていく水滴。


―――痛てぇ…―――
暗闇の中、一人大の字で寝そべっている未開封。
―――死ぬって、こんなの…―――
「あ…俺、死にたかったんだけっか…」
―――世の中には、生きたくても生きれない人が…―――
「ガキでも知ってるって…」
フン。と大きく開く擦り傷だらけの鼻。


―――充分、幸せでしょ!―――
「母ちゃん、その時点で…」
―――駅前でたむろしてるような連中になってほしくない!―――
「俺は、比較されてるじゃねぇか…」

閉じられた未開封の目とまつげ。
「ただ、真面目に生きてるだけだよ…俺だって…ん?」
未開封の顔を照らす、白い明り。
パソコンの画面…。何も書かれていない白い画面と、点灯するカーソル。
「小説か…」

―――たしかに、あれやってる時は幸せだったよなぁ…―――
暗闇の中、落ちてるとも、止まってるともつかない未開封。
―――あの最中だけは比較されても、なんとも思わないもの―――


駅のホーム、トロフィーを担ぎ上げる、黒いシャツの未開封。
拍手する、ムニャラ、サム、ピッコリ、パシリ、エース。
「たまプラーザ」と書かれた、駅の看板の前で笑顔の未開封。
―――友達か…―――


黒いパーカーを被り、拳を構える小林。


―――でも、結局違う人間だよ…―――
手で自分の胸を抑える未開封。
―――そう思わないと、裏切られたら痛てぇもの…―――


―――俺は、あの瞬間さえあればよかった…―――
うっすらと開く未開封の目。
―――自由だったよ、美化してんのかもしんねーけどどんなに痛くても、どんなに辛くても屁でもなかったよ―――


萌え・パーティピープル・踊らない曲は書いても無駄・消費・評論家・派閥・誰かのために・奴隷…。
水のように波紋を広げる文字の中を漂う未開封。


―――でも、もうなんか、しらけちまった…―――
再び目を閉じる未開封。


目の中、浮かぶ黒いネクタイ。
「リーマン?誰が俺みたいなの雇うよ…」
ナイフ。
「ああ、殺してぇよ…あいつも…こいつも…でもよ…」
家。
「お袋が泣くんだよ…俺の人生っ…お袋のもんだ…」
腕で、顔を隠す未開封。


―――あいつが悪い、あれが悪い、俺が悪い…―――
「繰り返しじゃねぇか…くそ…」
腕で隠れた顔の下、開き、震える口と歯。
「ん…」
震えを止める口。


腕をはずし、目を見開く未開封。
未開封の目の前…白い光を放つ、マイク。
――え……―――


ぼやける視界。
自分を覗き込んでいる黒い塊。
やや、しっかりとしてくる視界。
黒い目と褐色の唇。


「だ…」
大きな枕に沈んだ顔を傾ける、未開封。
大きな木製の扉を開けて出て行く、年老いた黒人。
「れ…」
ドアのきしむ音と、大きなベットを囲うカーテンからこぼれた声が響く、
高い天井の部屋の装飾が飾られた壁と、絨毯。


枕に横顔を押し付けた未開封の口から垂れるよだれ。
ギィィ…。
「!」
ドアの開く音に気づき、よだれを手で拭き、起き上がる未開封。
「お目覚めになられましたか」
床を蹴って進んでくる皮靴。
「ん…?あれ…」
ベットで身を起こし目を丸くする未開封。
「お久しぶりです…覚えておいでですか?メイベルです…」
笑みを浮かべる白髪の老婆。
「え…?えーっと…記憶の片隅に…」
目をそらす未開封。ベットの横の丸椅子に座るメイベル。
「無理もないわ…貴方とホーストさん…初めてであったときから、もう50年も経っているんですもの…」
「…」
メイベルを映し、見開く未開封の目。
「ここは…」
未開封の視界の先…開かれた窓。
窓を囲う木々。
その先の、どこまでも続いていく緑の平原と山…。


―――19世紀末 イギリス郊外―――