生活衝百科2

ラッパー東京未開封( Smash Egg Records)(EX ZIGOKU-RECORD)が人生というクイズに挑戦します!!!正解したら褒めてくれ。

72話 月と星⑫吸血故事

月と星が、屋敷を照らしていた。にらみ合う、パシリと伯爵。「やめろ!あんたには関係ない…」と、息も絶え絶えに言う耕平。「なんだ貴様…」「おめーがシオンさをやっただか!」と自分をにらむ伯爵に叫ぶパシリ。ポケットに手を突っ込んだまま向かってくる伯爵。構える。「あれ…」無意識に自分が後ずさりしている事に気づくパシリ。


『リーチがなきゃ、飛び込むんだよ、それがお前のボクシングだよ』パシリの脳裏に浮かぶ、ウカジと天城の顔。床に落ちる冷や汗。歩いてくる伯爵に向かい、身を屈めて突っ込むパシリ。パシリの頭から振り落とされるはいじ。


伯爵のボディに刺さる拳。落ちてきた顔面を打つフック(トリプル…!!)一瞬浮かぶ、エルフリーデに蹴られた瞬間。パシリは飛びあがりながら、アッパーを放つ。もんどり打つ伯爵。


「イエス!イエス!ムギ!ムギ!セイホー!セイホー!」柵に登り、無茶苦茶に叫びながら両手を振りあげてガッツポーズをとった後、「おい!カウントッ!」と耕平に向かって叫ぶパシリ。「あんた!ダメだ!そいつは…」耕平が叫んだとき、パシリは倒れていた伯爵がいない事に気づく。


次の瞬間、パシリは伯爵首を掴まれ宙吊りにされる。「珍しい生き物だ。永く生きてはいるが、このキンケル、この様な生き物は始めてみる…」もがくパシリを押さえつけたまま、ひきよせた伯爵。「オーストラリアに生息しているコアラに似てはいるが…体毛が白い。そして2足歩行をし、人語を使う…」そして、パシリの口の横を引っ張りながら「上下に生えそろった牙も興味深い。妖怪か…しかし、見たことのない部類だ」「パシは妖怪じゃないムギ!!!パシはな!パシはな!」噛付くように叫んだパシリの横顔に伯爵の裏拳が当たる。


「勝手にしゃべるな。けだものめがッ」耕平の横を吹き飛ばされていくパシリ。背を向けたまま起き上がろうとしたパシリにむかって、凄まじい速度でダッシュをする伯爵。起き上がったパシリの上着がずれ落ち、背中にハゲ天ジムのロゴが入ったTシャツが露になる。「しかし、最も興味深いのは……牙や爪を持っていながら、拳闘。人間の戦闘方法で戦うところだな!!」速度を乗せた伯爵の蹴りが、パシリの背負ったハゲ天ジムのマークに当たる。ゴキッという音とともに、悲鳴を上げ、鼻血を吹きながら弓なりに体をそらすパシリ。


倒れたパシリの頭を踏みつけながら、伯爵は耕平に向かって言う。「じっくり探求させてもらうとしよう…。この忌まわしい「ヴァンパイアの恋人」を消し去ってからな…」


「その汚い足をどかしなさい!」葉月の声に振り向く伯爵。立ちはだかる葉月と成児。「葉月ちゃんに聞きましたよ…あなたの光の屈折を操る能力を…あやく相打ちするところでした…いかにもあなたらしいやり方です」地面に突っ伏したまんまのパシリ。


「ルナお嬢様…汚いとは失敬ですな。磨いてもらったばかりですよ、祐美姉さまに…」伯爵の言葉に怒りを露にする葉月。「フフ…その目…私をさげすむそのまなざしにはいつもゾクゾクさせられます…」口元を緩める伯爵。「ぶっ…」倒れたパシリがぴくりと動く。「あああああ!!」叫び声と同時に、耕平は伯爵を殴る。よろめいた耕平を支える葉月。「キス…」そのまま、耕平の首筋をかむ葉月。「離れなさい!!ルナお嬢様!!!」


伯爵を包む、光の十字架…。倒れたパシリは、過去の事を夢に見ていた。


携帯電話を取る未開封。「あ、どうもタキさん…」テレビを見ているサムとパシリ。パシリは暫く話していた未開封の表情が変わる。「いやさ…昨日チャットしたんだけどさ…。あいつ…謝罪のメール出さないから、今日、君ん家いくって。とりあえずね。来ても絶対に相手にしないほうがいいよ」「どうもありがとうございます…。いや、それはないですって。まじ迷惑かかりますから俺にも…」笑いながら電話を切る未開封。すぐに未開封はおいてあったバックをあけ、中からポケットナイフを取り出す。「あいつぶっ殺してやる…」


「兄ちゃんどこいくんだ?」とサム。「ちょっと…例の件」と部屋を出て、階段を下りる未開封。「あれ、同人誌?」「おう…調子合わせてりゃ散々ナメやがって。家まで来るならやってやんよ…」眉間にしわを寄せる未開封。「いいか!お前らもなめられたら終いだかんな!」とサムとパシリに向かって言う未開封。パシリの目に映る未開封の背中…。


「だから言ったんだ…」パシリを仰向けにしながら、成児は言う。「ちょっと…死でないわよね!?おきてよ!」あわててパシリの顔に聖水をかける葉月。「おい!こいつが吸血鬼かなんかだったらどうすんだ!?」と耕平が叫ぶ。しかし、パシリは起き上がる。「なんともないようですね…」


下を向いて小声でぶつぶつ呟いてるパシリ。その鼻に突っ込まれたティッシュ。柵の下から一階を覗き、シャンデリアの残骸を見る耕平「チッ…逃げたみたいだな」「そう思わせておいて、不意打ちを仕掛けてくる。油断ならない相手です、キンケル伯爵は」「でも暫くは襲ってこないんじゃあないか…」と、耕平。パシリを除く皆が外を見る「夜明けか…」


その時、鐘の音が鳴り響いた。「じっちゃん!!」「あんなところに!」庭に祖父がつるされているのを見た耕平は、「成児、葉月と祐美とそいつを頼む!みんなで脱出するぞ!今のうちに!」


パシリの様子を見た葉月は、「成児にい様、はいじ、祐美姉さまはお願い!」と叫ぶ。「よっしゃ」と、はいじを連れてそのまま奥へ走り去る成児。


「あいつ、あいつ…つよい…ムギ…」「もう!いちいちなんなのよあんた!」下を向いて震えたままのパシリと、いらだつ葉月。「ん゛!」その時、葉月のつけた猫耳が、小さなうめき声に反応した。パシリの手を引き、声がした部屋のドアをあける葉月。中に居たのは、ロープに縛られて、うめく金髪の女性…。女の足が窓から入ってきた光に触れると、解けるような音がした。


「エルフリーデ!」パシリをおいたまま、エルフリーデに近づく葉月。「しかたないわね…助けてあげる」縛を解かれたエルフリーデは、咳き込みながら言う。「お嬢様…キンケルは…デイウォーカーです…」


エルフリーデの言葉に、血相を変えて部屋の外に出る葉月。庭で倒れている、耕平の姿を見て悲鳴をあげる…。その声を聞き、震え出すパシリの手…。


―――ぜってーにかてねーよ!!!――