生活衝百科2

ラッパー東京未開封( Smash Egg Records)(EX ZIGOKU-RECORD)が人生というクイズに挑戦します!!!正解したら褒めてくれ。

73話 月と星(終)Only for the Mind Strong pt.1


悲鳴を聞き、外に出ようとした葉月を、日の光に当たるすんでのところで止めるエルフリーデ。
「姿は見えず…故に太陽光により滅びることもない…伯爵は日の光の下で活動で出来る吸血鬼…『デイ・ウォーカー』なのです」


光の屈折を操り、吸血鬼の唯一の弱点である「日光」すら遮断するキンケル伯爵に耕平、成児が次々と倒されていく中、パシリは葉月達の前から姿をくらます。


伯爵に締め付けられる耕平を見た葉月は、耕平たちを解放したら城に戻ってもいいと言う。しかし、伯爵はそれを拒む。「聞けません…この者は我らの秩序を乱す不心得者を排出する温床になります…そこに居る女のように…」そんな伯爵に対し、日の光に向かって歩を進める葉月。「いいの?私が無傷で帰らなかったら、お前もまずい事になるんじゃない?」


(どういう事だ?なぜ、お嬢様はこの男にこだわる…?)
その時、両者の間に一台のバンが突っ込んでくる。それは、シオン達が乗ってきたバンで、パシリが運転していた。あわててブレーキを踏み、ハンドルを握ったまま震えるパシリ。バンの窓が、カーテンが閉められているのを見たエルフリーデは、マントで自分と葉月を覆い、手足にやけどを負いながらバンの座席下にもぐりこみ、足でドアを閉める。こちらに向かってくる伯爵の姿を見たパシリは思わずアクセルを踏み込む。


そのまま門を壊して、外へ飛び出していくバン。割れたフロントガラスの破片がパシリの耳を傷つける。道から外れて斜面を下っていくバンはやがて森の中に入り木に激突。パシリは衝撃で頭をハンドルにぶつけ、クラクションが鳴る。クラクションの聞こえたほうをにらみながら、耕平の腕を踏みつける伯爵。「すぐには殺さん…気がかりがある…」


バンの中…。
「あんた…殺す気?」運転席に座ったパシリに、後部座席の下から抗議する葉月。それを無視して座席の横に置いてあったペットボトルのトマトジュースを飲むパシリ。生ぬるくて思わず吐き出す。


「まだ車は動きますか…?このままでは伯爵がやってきます…早くここから抜け出して!」エリフリーデはパシリに訴える。「何言ってるの!?戻らなきゃ!みんなが…!」パシリは咳き込んだまま、二人の口論を聞いていた。「あんただって、伯爵を倒したいんでしょ!自由が欲しいんでしょ!」「今は体勢を立て直すのです!死んでしまったら自由も何も…」「体勢を立て直すって言ったって、誰か助けに来てくれる人なんているの!?」その言葉にハッとするエルフリーデ。


パシリの拳を受けた腕に痛みを感じる伯爵…。
「最期に教えてやろう」
暗い部屋の中、倒れた耕平を見下しながら、その痛みを隠すようにポケットに手を突っ込んだ伯爵は言う。
「我々を、貴様ら下等な者どもが倒す方法が二つだけある」
伯爵の背後に立つ、無数の人影。
「一つは貴様の様な、『ヴァンパイアの恋人』が不心得者のヴァンパイアを味方につけること…」
目を見開く耕平。「成児…じっちゃん!」
「もう一つは、『絆』だ。認めたくはないが我々と違い、人間は脆弱であるが故に、時に『支配』や『服従』とは違う関係を築き上げる。時にそれは我らに匹敵する力になりうる」
伯爵の足元から伸びる、奇妙な触手。
触手に、首元を噛まれる成児と竜平。
「だが…それも逆手にとれば良いこと…フハハ!!」
伯爵の背後に、無表情で立つシオン達。


バタンと言う音とともに、バンのドアが開き、パシリは外にでる。

―――求めるモノ 求められるモノ 合うとは限らないコワレモノ 連れならば見える色んなモノ それぞれに事情ってモンがあんだろ ―――

「ちょっとどこ行くのよ!」とたずねる葉月。足を震わせながらパシリは応える「思い出したムギ…パシもあいつに友達が人質にとられてるムギ…」
振り向きながらパシリは言う。
「お母さん曰く、友達だけはノーダウト。ムギ」
友達という言葉に、目を細めるエリフリーデ。
お母さんと言う言葉にはっとする葉月。
パシリの足の震えが止まる…。
「この前は殴って悪かったムギ…。あの人たちも助けるよう、だからおあいこにしてくれよう」
バンに向かって、言うパシリ。その耳から血が流れる。座席の下でエリフリーデと重なりながら、身をすくめる葉月。

―――気にすんな 俺なら気にしない 白黒つけんのは所詮テメェ次第―――


「じゃあさようなら…」行こうとするパシリに「待って」と言うエルフリーデ。召還の声とともに大量のコウモリがバンから飛び出し、パシリの視界をふさぐ。「私たちも連れて行ってもらわないと困ります」離せと叫ぶパシリに「私たちも友達なりましょう」と言うエルフリーデ。「顔を蹴っ飛ばした奴となんか友達になれないムギ!」と言い返すパシリに「じゃあ、私も殴ってきた奴なんか信じない!」と叫ぶ葉月。

帰っちゃ来なくても 例え騙されても お前のためじゃない いかなる情けも

「わかったよう!」と叫ぶパシリ。コウモリたちはパシリから離れ、周囲のゴミの山へ飛んでいく。「武器になるものを探します…運転は任せましたよ」「今度乱暴な運転したら承知しないんだから」


ガタガタゆれながら、フロントガラスが割れたバンが洋館に近づいていく。壊れた門を踏みながら庭に入り、そのまま揺れながら庭を進み、館のステンドガラスへ突っ込む。屋敷の中に侵入したバンに向かって、高速で杭が飛び、フロントガラスを突き破り、運転席に突き刺さる。バンの両ドアが開き、暗がりへと転がっていく葉月と、エルフリーデ。


「パシリ!!」レンチを手にした葉月が叫ぶ。「大丈夫です!お嬢様!」開いた運転席側のドアと、地面に転がったパシリを見て、鉄パイプを持ったエルフリーデが叫ぶ。「やはり来たな…」2階から3人を見下ろす伯爵。そして、その横にいるシオンと仲間達、そして裕美…。
「裕美姉さま!」「シオンさ!」


伯爵が顎で合図すると同時に、一斉にパシリ達に向かって階段を降りてくるシオン達。「操られてるの!傷つけないで!」と葉月いわれ、うなづきながら飛び出すパシリ。


階段を一足早く降り、スタンガンを振り上げた裕美の腹に頭突きし、尻餅を突かせるパシリ。「シオンさ…!」


スパナを手に向かってくるシオンの仲間達の肩に、ジャンプしてまたがるパシリ。その頭を懐から取り出した木製ハンガーで叩く。二人の男を倒し、着地したパシリは、そこをナイフで襲ってきた男の手をハンガーで叩き、ナイフを落とす。上から次々と襲ってくる男たちの武器をハンガーで落とし、ハンガーでみぞおちや顎を打ち気絶させるパシリ。最後の男の顎をハンガーの先端で打ち抜いたパシリに、シオンが階段の上から回し蹴りを繰り出しながら迫る。


蹴りをハンガーで受けるが、吹き飛ばされてしまうパシリ。立ち上がったパシリに起動を変えた蹴りが何発も襲う。かわしながらハンガーで脛を打つパシリ。バランスを崩したシオンにロープが飛び、巻きつく。「しばらく大人しくしていてもらいます」手の平を構えたエルフリーデが言う。


『陰陽五行八卦!!』
パシリの前で爆発が起き、土煙が起こった。煙の向こうから、手を構えた成児と竜平が現れる。脂汗を浮かべ、息の荒い二人…。「成児にいさま、おじい様…!」


エルフリーデは、二人の首筋に付いた宝玉の付いた触手を見つける。「パシリさん!!お嬢様!!あれを狙って!!」ハンガーを放り投げるパシリ、手の平を構え、それを誘導し、成児の首についた宝玉を狙う葉月。宝玉が砕け、その場に座り込む成児。


パシリに、背後から飛び掛る竜平。反応するもボディブローを喰らい、身を屈めるパシリ。そこに落ちてきた竜平の踵をかわして、腹に肩をぶつける。竜平を掴み、口で首の宝玉を砕くパシリ。
破片が煌きながら落ちていく。階段に腰掛けながられを見ている伯爵…。


口の中に入った破片を吐き出すパシリ。成児に駆け寄る葉月「大丈夫ですか…葉月ちゃん…」成児の一言に涙を流すパシリ。「許さない…!キンケル!あんただけは!」


「いささか、それも聞き飽きましたな、ルナお嬢様」耕平の頭を掴んだ伯爵。「あなたがいけないのですぞ…お嬢様。あなたがいなければこの者もこうはならなかった…」「逃げろ!葉月ッ!!」
耕平の腕を強く握る伯爵。堪らず悲鳴をあげる耕平。


「おい…!パシとタイマンはれ!」伯爵に向かって怒鳴るパシリ。「黙って、住処に帰れば良いものを…」「パシリさん!よけて!」エルフリーデの声にパシリが反応したときには、すでに後頭部に伯爵の腕が当てられた後だった。階段の伯爵は虚像だった。


駆けつける葉月達と、立ち上がる成児達。膝を突きながらパシリは彼女達を止める「…タイマンって言ったムギ!」「ほう、殊勝な心がけだ」伯爵の声だけが聞こえる。「パシはお前みたいなクソッタレじゃないムギよ…」構えながら吐き捨てるパシリ。次の瞬間、後頭部に叩き込まれる蹴り。揺らいだところにまた蹴り。顔にガードを集中させれば腹部に蹴り…姿を消したままの伯爵の攻撃は続く。「クソで無ければ貴様はなんだ?汚らわしい獣め!!」「パシは…」パシリの目が細められた。パシリの鼻を揺らす風圧。ゆっくりとなる時の中で叫ぶ葉月とエルフリーデ…。


「『不良』だ!!バカヤロー!!!!」パシリの怒号。伸びきったその腕の先に、パシリの拳に顔を捉えられた伯爵の姿が現れる…。
―――交差殺法(ライト・クロス)―――


がは、がはと血を吐きながら顔を抑える伯爵。
「ウソだろ…」階下を見ながら、呟く耕平。「直感だけで、姿の見えない敵を…!!」竜平を抱えたまま驚愕する成児。
「偶然だ…!偶然に…」よろめいた伯爵にパシリの口が迫る。とっさに出した腕を噛まれ、絶叫する伯爵。「離せ!!」パシリを振りほどいた伯爵。だがパシリはすぐに下から迫る。飛び上がりながら突き出した肘が伯爵の目を切る。「お前にはケンカで勝つ!!!」


「御堂家も形無しじゃのう…」成児に肩を借りながら、呟く竜平。「あのコアラは一体…」身を屈めた伯爵にボディを叩き込むパシリ。続けざまに顔を蹴り上げる。「クソ…まぐれだ…!」能力を発動させようとした伯爵の横っ面にフックを放ち止めるパシリ。「やっちゃえ…!やっちゃえ!そこだ!いけ!!」騒ぐ葉月。


「駄目です…パシリさん」一方的に伯爵を殴るパシリを見ながら、焦るエルフリーデ。「それじゃ、吸血鬼は殺せない!」パシリの足元にバンの運転席から抜き取った杭を転がすエルフリーデ。「太陽の下で、胸にそれを突き刺してください!!その方法でしかその男は殺せない!!」「実の父親に「その男」呼ばわりか…」小さく呟く伯爵。再びその顔をフックが捉える。


「なにしてるの!早く!」杭を拾う様子もなく、伯爵を殴り続けるパシリ。「早く倒れろムギ!」「こいつ…フン」殴られながら鼻を鳴らす伯爵。「喰らえ!!」身を捻るパシリ。「!」伯爵の後頭部を襲う不規則な軌道のパンチ…オーストラリアン(ロシアン)フック。不意をつかれた伯爵はついに転倒する。


息を荒くしながら伯爵を見下ろすパシリ。だが、伯爵の目が見開かれ、パシリは表情を歪める。次の瞬間、伯爵の体が消えパシリの横を突風がすり抜ける。葉月に向かっていく突風。「なにを…!」「絶望だ…!貴様らの絶望を喰わせろ!!」葉月を抱えたまま外に向かって走っていく伯爵。立ちふさがったエルフリーデを弾き飛ばす伯爵。「絶望だ…お前がかって私に見せたような絶望を…!それが喰えるなら、私は!」割れるステンドグラス。「葉月!!」


太陽。樹から飛び去る鳥。飛び散るガラス片。宙を舞う葉月。「主に逆らうことになろうと…!この屈辱の傷を癒す為にお前とお前の僕の絶望をもらうぞ!」地面に落ち、うめく葉月。「想像しろ…!太陽に焼かれ死んでいく自分の身を。貴様のせいで血を絞りとられながら死んでいく貴様の僕の苦悶の表情を…!仲間達には命乞いする暇も与えん…与えんぞ!!」


「乱心しおったか!キンケルめ!」叫ぶ竜平。その背後で大きく息を吐き、膝をつくパシリ。「これがキンケルという男の真の姿です…。罪を犯すことに悦びを見出した、不幸と呪いの温床…」「葉月ィ!」叫びながら階段を降りて行く耕平。「呪われた宿縁は…断ち切らねばならない…」落ちていたカーテンと杭を持ち外へ向かっていくエルフリーデ。


太陽の光に当ってもなんとも無い葉月を見てにわかに焦りだす伯爵…「まさか…、こいつもディ・ウォーカーなのか?」「五行総象!!」成児の声とともに、伯爵の背後に土ぼこりがあがり、金属片が周囲に巻き上がる。「陰陽…」金属片に光の反射がさえぎられ、伯爵の輪郭が現れる。振り向いた輪郭に、カーテンを被ったエルフリーデが伯爵に突っ込んでくる。


エルフリーデに杭を突き刺され、姿を再び現す伯爵。「馬鹿な…!クッ…傷口が…燃える…!」太陽の光に焦げていくエルフリーデの指。「貴様…この私を本気で…!がはっ」「ああああ!」胸から炎を出し、血を吐き出した伯爵を叫びながら両足で蹴る葉月。屋内に転がり込むエルフリーデ、その直前で日光に晒され、炎上する伯爵。


「これが…これが…私の絶望…」顔以外が火だるまになった伯爵が言う。見下ろすエルフリーデ。「ごめんなさい…ニナ…」見上げて笑いながら言う伯爵。ゆがむ、エルフリーデの表情。やがて顔にまで炎が達し、笑い声が悲鳴に変わる…。


空に舞う塵。葉月に寄っていく耕平。抱き起こされながら「僕のくせに無理して…」ともらす。膝をついたまま寝息を立てるパシリ…。こうして、パシリの奇妙な一晩は終わった…。


あくる日、一台の原付が通りを抜けていく。運転するのはシオン。シオンの後ろに捕まりながら、「さぶっ!」と叫ぶパシリ。「シオンさ、免許持ってんの?」「ウン、国際免許」「さぶっ!」原付はやがてハゲ天ジムの前へ。


ジムの中。パイプ椅子に座り「なんか汗くさい…」とこぼす葉月。ストーブの前で、葉月を睨むウカジ。リングの上、打ち合わせをする腕を吊った耕平と天城。やがてパシリとシオンが現れる。


「これはずせよ!」「なによ」葉月を見るなり、猫耳をとろうとするパシリ。「軟弱感ムギ」「感って何よ、感って」やがて、グローブをつけてリングに上がるパシリ。「ありがたいことだぜ。カメラマン見つけてくるとはな」「いえ、こちらこそリハビリに付き合ってもらってすいません」ポーズをとったパシリにシャッターを切る耕平。


「パシチャン、カワイイヨー!(嘘)」フラッシュが焚かれるたびにリング下から言うシオン。「カッコウソってなんだよう!」「フン…あんなにハシャいじゃって。耕平って、心霊写真しかとれないのに」「え」葉月の言葉に首をかしげるウカジ。



「けっこー映りよかったムギ…」


チャリンコを漕ぎながら、坂を下っていくエース。途中にあった掲示板にパシリのポスターを見つけ、戻る。
ジャージャー麺にミートソースかけて怒られるリメルダ。
壷を磨く竜平。その後ろに立って笑っている黒いドレスのエルフリーデ。
グローブを壁に掛けるパシリ。
リングを見た後、ジムの明かりを消すパシリ。
戸を開け、外へ出て行くパシリ…。


青い空。